2009年11月15日
DARK SIDE

 カチャリと扉が開く音に、ビンセントは机の書類から目を上げて、そちらを見やった。

 「秋生!?」
そこにはもうとっくに眠りの世界の住人となっているはずの秋生が、少しだけ開いた扉から、歳にしては可愛いらしい顔を覗かせていた。

 「秋生、どうしたのです。目が覚めてしまいましたか」
尋ねるビンセントの声は、優しさに満ち溢れていた。
「・・・・・・」
秋生は頷きながらニッコリと微笑むと、僅かに開けた扉の隙間からスルリと部屋の中に入ってくると、後ろ手にそっと扉を閉めた。

 「おやおや、そんな薄着では風邪をひいてしまいますよ」
白い薄手の寝間着に素足では、いくら適温に保たれている屋敷内とはいえ風邪でもひいたらと、ついついと心配してしまうビンセントであった。
 秋生は無言のまま、ビンセントの方へ歩み寄ってくるが、足元の絨毯の毛並みに何故か躓いてよろめいてしまう。
 それをいち早く察して、椅子から立ち上がったビンセントは軽々と秋生の身体を抱きとめた。

 薄い寝間着を通して感じる秋生の身体の抱き心地と体温、そして、フッと鼻腔をくすぐるような芳しい花の香りに、ドキリとビンセントの胸は高鳴った。

 「大丈夫ですか。何処か具合でも悪いのですか?」
内心の動揺を隠すように尋ねるビンセントに、何でもないと頭を小さく横に振って見せる秋生。

 (ああ、今夜の秋生はどうした事だろう)
何故、そう感じるのかはわからなかったが、何故かいつもとは別人のような、妖しい魅力に溢れていた。

 明るく元気いっぱいで、どこか目の離せない危うい無邪気さが魅力の秋生。そんな彼が、何故か今日は寡黙な分、訴えかけるようなその瞳が潤んで艶っぽい。

 (きっと寝起きだからか・・・・・)
そんな風に感じてしまう自分を否定し、なんでもないのだと動揺してしまう心を落ち着かせようとする。が、秋生はそんなビンセントの努力を知ってか知らずか、スルリと手を彼の背に回して、自らの身体を寄せて、抱きつくのであった。

 「やはり、何処か具合か悪いのですね」
そう言いながら秋生の手をとり、密着した身体を少し離そうとするビンセントであったが、秋生はイヤイヤと頭を振ると、また身体を密着させてくるのであった。

 「秋生!?」
さすがに秋生の真意がわかりかねて戸惑うビンセントを、秋生がフッと見上げると、花が咲いたように微笑んだ。

 その瞬間、先程感じた花の芳しい香りが、グッと密度を濃くして、クラリとするほど匂いたった。

 「ビンセント・・・・・・」
秋生が囁くように名前をゆっくりと口にする。その唇の赤さが悩ましくて感じられて、さすがにビンセントは、焦った。

 (危険!!)
そう感じながらも、ビンセントは秋生から目をはなせない。

 秋生は、ビンセントの胸に頬をすり寄せるようにしながら、思いつめたような表情で言った。

 「ずっと、こうしたかった。貴方が好きです」
恥ずかしげに視線をそらし、頬を赤く染めてうつむく。
「秋生・・・私は・・・・・・」
応じたい気持ちでいっぱいであったが、聖獣としての使命を重んじる理性が、辛うじてビンセントを踏み止まらせていた。

 「貴方のお気持ちはとても嬉しいです。でも、今夜は、もう部屋へお戻りなさい」
「嫌、戻らない」
ビンセントの胸にしがみついて、子供のようにイヤイヤと首を振る秋生の頭をあやすように撫でる。

「お願いです、秋生」
どうやってなだめようと困惑するビンセントの態度に焦れた秋生が、ついにはシクシクと泣き出してしまう。

 「ビンセントは僕の事なんか、嫌いなんだ」
「そんな事はありません」
「だったら、キスして」

 「!!」
突然の発言に、一瞬、動揺を隠せず固まってしまったビンセントに、うつむいて涙を零していた秋生が、挑むように顔を上げると、そっと目を閉じる。その睫を濡らす涙が、また一滴、頬を伝うのを目にしたビンセントはたまらず、秋生の唇に口づけをするのであった。

 「ビンセント、嬉しい」
ほんの一瞬。触れただけの軽いキスであったが、それを素直に喜び、儚げに微笑む秋生への愛しさが、心の中を嵐となって吹き荒れた。

 (ああ、なんて愛しい存在なんだ、秋生・・・・・・)
だが、全てを受け入れてしまう事への抵抗感は消えていなかった。

 (ひと時の情熱だけで手折ってしまっては、いけない可憐な花の蕾。きっと後悔してしまうに違いない)

 自分の秋生への想いは本物に違いないが、まだ年若い秋生の気持ちは、世話になった恩人への感謝の気持ちを、ただ勘違いしているだけなのかもしれない。本能に衝き動かされて、その場のひと時の快楽に溺れる事によって、本当に大切な存在との関係を台無しにしてしまう事を、ビンセントは強く恐れていた。

 「ねえ、ビンセント・・・・・・」
「秋生!?」

 密着した身体から伝わってくる熱と昂ぶり。それをゆるゆると擦り付けるよう腰だけ動かしながら、手の平でビンセントの身体を撫でて、うっとりとした表情を浮かべる秋生の淫らな姿態。

 頭の芯の奥まで浸透してくるような花の甘い匂いが、ビンセントの欲望の炎を少しずつ煽り始める。

 「お願い、抱いて・・・・・・」
切なげにねだられた瞬間、ビンセントの中の理性の糸は脆くも切れ、秋生の唇を激しく奪っていた。

 欲しいという欲望と、全てを奪いたいという征服欲に支配され、秋生の寝間着を乱暴に剥ぎ取る。下着すらもつけていなかった秋生の欲望は、すでに立ち上がり、先走りの蜜を零してフルフルと震えていた。

 「あっ、ああっ、嬉しい」
酔いしれたようにビンセントのされるままに身体を淫らに開く秋生が、喜びの声を上げる。

 その艶っぽさがますますビンセントを煽り立てる。

 (危険、危険・・・・・・)

頭の片隅で理性が断末魔の悲鳴をあげて訴えるが、暴走し始めた欲望と快感が圧倒的な力で、ビンセントを衝き動かすのであった。

 「ああんっ、んんっ」
昂ぶりを捉えて擦りあげると、必死に縋りつきながらも貪欲に快感に酔いしれる声があがる。
 「あんっ、ああっ、気持ちいい、んんっ」
巧みな扱きにあっという間に精を放ってしまう秋生。

 「あっ、ああ、でちゃう、んんっ」
ハアハアと荒い息を吐きながら脱力して、足から力が抜けて倒れかけた秋生の身体を強く抱きとめる。

 「大丈夫ですか?」
さすがに焦りすぎたかと後悔したのもほんの一瞬で、うっすらと上気した秋生にうっとりとした眼差しで見つめられ、

 「もっと、して」
と、ねだられ、口づけを求められたら、躊躇する理由はなかった。

 先程まで仕事をしていた机の上に、秋生を押し倒して、足を大きく開き、身体を捻じ込む。

 その勢いで机の上の書類がバサバサと落ちて広がるが、遠慮はしなかった。
 深い口づけを交わしつつ、秋生の胸の尖りを悪戯する。左を指でこねまわし、片方をを舌と唇で愛撫する。

 「ああっ、やっ・・・・・・」
背中をピクピクとそらせて身を捩る秋生の過敏な反応が、ますますビンセントを駆り立てた。

 秋生の身体を裏返しにして、白い尻を顕にすると、その狭間の蕾へと指をそっと挿入する。硬い蕾はその侵入をなかなか許さなかったが、先走りの蜜が滴り、次第に緩やかになってくる。

 やがて、深々と奥へと侵入を果たした指が、ある場所を掠めた瞬間、秋生の声に明らかに違う甘さが生まれた。

 「ああんっ、いいっ」
「ここが感じますか」
クチュクチュと指を動かすたびに、秋生の身体が跳ねる。

 「あんっ、いいっ、んっ」
「本当に感じやすい身体ですね」
「ああんっ、やっ、もう、やだっ」
感じすぎて歓喜の涙を零す秋生。

 「ビンセント、お願い、もう・・・・・・」
やめて欲しいのか続けて欲しいのか、ビンセントは意地悪にも指を抜いて、身体を離してしまう。

 強い快感から突然に、放り出された秋生は、しどけない姿をさらしながら、違うとばかりにプルプルと頭を小さく横に振りながら、涙を浮かべた瞳でビンセントを見つめた。

 「ビンセント・・・・・・」
「秋生、どうしました」
「・・・・・・・」
疼く身体をもてあまし、自分の腕で自分を抱き締めて震える。

 その哀れな姿さえビンセントの欲望を煽る。
「ビンセント・・・、ううっ、意地悪・・・」
「嫌ではないのですか」
「ち・がう・・・して・・・欲しい」
その言葉に誘われるように、ビンセントは再び秋生を
優しく抱き締めた。

 「秋生」
「ああ、ビンセント」
双丘にビンセントの昂ぶりを感じて、秋生は期待に喘ぐ。

 「んあっ、ああーっ」
圧倒的な質量のものに貫かれて、秋生は叫びをあげて身を捩る。零れる涙が痛みのものか、喜びのものかも分からない。が、必死でしがみついてくる愛しさに、ビンセントは、もう何も考えられなくなっていた。

 その時、ビンセントに翻弄されて、しおらしく涙を流していた秋生の口元にクッと妖艶な笑みが浮かび、唇が声にならない言葉を形づくる。

 (おちた!!)
眼差しには邪悪な陰が宿る。が、それは忽ち消えうせて、従順に快楽に溺れる秋生へと戻るのであった。


 素敵な夜だった。今まで味わったことのない豪華な料理とお酒。ビンセント・青から、彼の仕事仲間の3人、を紹介され、彼らから仕事で行った数々の旅で隊剣した珍しい話を聞くだけで、ワクワク心が弾んだ。 

 何よりビンセントとの好意によって彼の豪華な屋敷に住まわせてもらう事となった。今まで、天使養成所の寮で暮らしてきた秋生には、とても嬉しいことであった。

 早くに家族を失った秋生に、新しい仲間が出来たのである。
 あまりに嬉しくて、ついつい飲みすぎてしまい、早々に寝床についたものの、夜中に目が覚めてしまったのであった。

 まだ、ちゃんとビンセント・青に礼を言ってなかったのを思い出して、寝床を出た。

 夜中に部屋を訪れるなんて、迷惑かもしれないと思いながら、寝ていても気分が高揚してすぐには寝付けないような気がしたのである。

 ビンセントの部屋の前までくると、僅かな扉の隙間から灯りがもれており、人の声も聞こえてくる。
 まだ、起きていたのだと安心して、扉を軽くノックしてそっと開いてみた。

 (えっ!!)
部屋の置くの机の上でもつれ合う二人の姿。ビンセントに激しく攻め立てられて、喘ぐ声が生々しく聞こえてくる。

 (ビンセント!!)
さすがに何が行われているか察した秋生であったが、同時に胸が苦しくなってしまった。

 自分以外の者と交じり合っているビンセント。その相手が自分でないことが何より悲しかった。

 (どうして・・・・・・)
ショックに思わずよろめいて、扉に足をぶつけて大きな音が響く。

 それに弾かれたように振り替えるビンセントと、その彼の下で喘いでいた人物の顔があらわになる。

 (ええーっ!!)
その人物は間違いなく自分と瓜二つであった。

 「秋生!?」
ビンセントが驚いたように目を見開く。

 「なんで僕とそっくりなの」
二人の驚きの視線を受けながらも、その秋生は乱れた姿を取り繕うともせずに、気だるげに立ち上がった。

 「僕は秋生」
勝ち誇ったような余裕の笑みをたたえて静かに告げる。

 「嘘だ。僕が秋生だ!!」
必死で否定する。

 「嘘じゃない。僕は秋生。君自身だよ。無粋だね、折角ビンセントと楽しんでいたのに。君がずっと憧れていたからね。僕がそれをかなえただけ」
ウフフッと笑う秋生は、妖艶な魅力を持っていた。自分と瓜二つのはずなのに、何故、相手の方が綺麗に見えるのか。

 「まさかお前は秋生の闇か」
ハッと気づいたように厳しい表情で問うビンセントに、その秋生はニンマリと笑った。

 「さっきまであんなに愛しあっていたのに、お前よばわりなの?つれないな、ビンセント。僕は秋生だよ」
クククッと笑う秋生に、ビンセントは悔しげな顔をして睨みつけた。

 「たわいないよね。あっさり僕の術に落ちちゃうなんて。でも、とても気持ち良かったよ。貴方の精を僕の中にいっぱい注ぎ込んでもらったから。ホラこんな事も出来ちゃう」
いきなり両腕を交差して前に突き出したとたん、そこから放たれた炎が、秋生へ向かう。

 「危ない、秋生!!」
ビンセントが咄嗟に飛びついて、秋生を庇う。

 放たれた炎は壁に当ってそこにボッコリと穴をあける。
 まだ、事態を把握できずにいる秋生は、ただ、ビンセントが自分を庇ってくれたことが嬉しかった。

 「ビンセント」
「すみません、秋生。許して下さい」
項垂れるビンセントの顔浮かぶ苦悩の表情に、秋生は彼の深い悲しみを感じた。

 「大丈夫だよ、ビンセント。悪いのはあいつだ」
キッと自分と瓜二つの存在を睨みつける。とにかく相手が自分と偽り、ビンセントと関係を持ち、それによってビンセントが傷ついている事実が、秋生の全てであった。

 「僕はお前を許さない」
キッと睨みつける。が、相手はフフンと鼻で笑い飛ばした。

 「今の君では僕を倒せないよ。まあ、今日はビンセントに免じて許してあげる。とっても素敵な夜だったよ。じゃあね、またね」
ニッコリと微笑んだかと思うと、その姿が宙に消えてしまう。
 残された秋生は、何が何だか分からずただ、立ち尽くしていた。

 「あれは、何なの?」
思い切ってビンセントに尋ねる。

 「貴方が黄龍の玉に触れた瞬間に生まれた、貴方の闇の存在です」
「僕の闇の存在?僕はずっと天使になりたくて修行してきたのに、僕は天使になれないの?」
驚くべき事実であった。闇の力を持つ者が天帝に仕えることができるはずがなかった。

 「貴方はあの存在と戦い、勝たなければなりません。とても辛い試練ですが、それを乗り越えなければ、天使にはなれません」

 (それどころか天界の存亡にかかわるのです)
とは、さすがに言い出せなくて、言葉を飲むビンセントであった。

 「だったら僕は負けないよ、あんな奴に」
(ビンセントも絶対に渡さないから!!)
ビンセントとあんな事して、許せないという気持ちが何より強かった。

 「私はまたしばらく旅に出ます。折角、お側にいられると喜んでおりましたのに、情けない。この身を闇に汚されてしまいましたので、力が戻るまで禊の旅にでます」

 「ええっ」
思いがけない言葉に秋生は、驚いた。だが、傷ついたビンセントを見ると、このまま自分が彼の側にいるのも良くないと思った。

 「僕、修行して待っているから.きっと帰ってきて」
「ええ、必ず」
しっかりと頷いてくれたビンセントに、秋生はホッと安心した。

 この試練を乗り越えて、幸せな時をいつか手にする事を心に強く誓うのであった。


                    2009年春 Jガーデン 発行

 このままだと年末まで更新は難しいかなと思いまして、思いきってのせました。キャーッ、お恥ずかしい。本当に今年はいろいろと忙しくて、バタバタしているうちに終わってしまいそう。これでは余りにも情けないですものね。こんなものもちょっとは書いてました。

こうしてビンセントは旅に出てしまいました。そして、遠くから様子を見守ってヤキモキしているわけです。

 パチンコの新EX麻雀を打っていて考えついたこのお話。リーチ時に青龍が出ると激熱らしてのですが、私は未だお目にかからず。
 台は数少なくなってまいりましたが、まだ一円パチンコで生きのびているお店がありまして、なくなるまではチャレンジしてみようと思います。試練だけ与えないで・・・・・・。

ニューギン様の花の慶次も本当に素晴らしい台で、最近ちょっともどきみたいな台が多発しておりますが、やっぱり面白いよね。もっぱら最近は一円パチンコで楽しませていただいております。

 今年の大河ドラマ天地人は本当に期待胸膨らませていたんですが、えっ、慶次様が出ない?おやっ、もう終わってしまう。なんだか違う世界へ行ってしまいました。残念。


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