クリスマス特集
SWEET
(その4)
2000年12月27日 更新
食べて飲んで盛り上がり、パーティーは秋生の日本のクリスマスの話で絶好調を迎えた。
「どうしてクリスマスにディナーを食べて、ホテルにお泊まりするわけ。もう、信じられないわ」
「と゛うしてって言われても分からないけれど、みんな、その日のために気合い入れて頑張るんだよ。相手がいなければ、必死で探して、相手がいる者はプレゼントやディナーのためにバイトなんかしちゃって、お金を貯めたりさあ」
「何それ」
セシリアが呆れたように言う。
「大体、クリスマスって言うのは、キリスト教の行事でしょう。日本は、どちらかといえば仏教徒が多い国じゃない。もう何はき違えているんだか」
「まあね。基本的に日本人はお祭りが大好きなんだよ。よその国の行事が位置のまにか日本流にアレンジされて定着しちゃうんだ。バレンタインデーとかね。その日じゃなきゃ女の子から好きな相手に告白することができないってわけじゃ全然ないけど、みんなでやれば怖くないって言うか、いいチャンスにしちゃうんだ」
「よく分からないわね」
「赤信号、みんなで渡れば怖くないって感じかな。一人でやると失敗七時の落ち込みも酷いし、周りの声なんかも気になっちやって、勇気もなかなかわいてこないけど、そういう日なんだって事にしちゃえば、チャレンジしやすいだろう」
「そんなものかしらねえ」
セシリアには理解しがたいようである。
「それじゃ坊やはそういう風なのを期待してたってわけか。そりゃ、落ち込むわけだ」
「愛されてないって思っちゃうわけね。お邪魔しちゃったかしら」
ヘンリーとセシリアの鋭いつっこみに、話すんじゃなかったと後悔してもあとの祭り。みんなにニヤニヤと笑われて、秋生はいたたまれなくなってしまう。
「嬉しいですね。今からでも遅くはありません。部屋をとりましょうか」
すっかりその気になっているビンセントに、秋生は慌ててブンブンと頭を横に振って、否定するのであった。
「ビンセント。別にそういたいってわけじゃなくてモそういう相手がいるって事が大切っていう事なんだから」
「秋生」
見つめ合ってすっかり雰囲気を作ってしまったビンセントと秋生の二人に、セシリアはフーッと溜息をつくのであった。
それは、秋生にビンセントの様子が変だと相談された翌日のこと、秋生がなにやら感じ始めた事を忠告するために、東海公司の社長室をセシリアは訪れた。
秋生が告白した嘘のことも告げたのだが、ビンセントの態度は、彼女が期待していたのとは全く違っていた。かねてより冷静な男であることは、長いつき合いで分かり切ってはいたのだが、彼女の話を聞いたビンセントはそんなことかと、フンと鼻で笑って見せたのである、
「そんなことって、全然気にならないわけ。まあ、自分のやましい過去を反対に突っ込まれたら困るでしょうけどね!!」
すっかり落ち込んでしまっている秋生が可哀想になって、セシリアは嫌みをいうのであった。
「ミスター工藤はそんな心の狭い人間ではないからな。私の過去など気になさらない」
「えらく自信ありげじゃないの。でも、秋生は貴方に妬いてもらいたくてって嘘をついたんだから、ちょっとくらいは気にしてあげたっていいと思うわよ。あれで結構デリケートなんだから」
「私が言うのは、それが嘘だって言うことは、最初から分かっていたって言うことだ」
意外な言葉であった。
「あら、どうしてよ」
あとで、聞いた自分が馬鹿だったと随分後悔したものだが、ビンセントは余裕ありげに笑って、幸せそうに言って見せたのであった。
「そうかそうじゃないかは、抱いてみれば分かることだ」
今、思い出しても、その頭をはり倒したくなるほどの恥ずかしい言葉であったが、本人がいたって真面目な顔していったのだから始末が悪い。
結局は熱々の二人に、自分が振り回されただけのような気がするのであった。そして、5000年もの長いつき合いでも、知り得なかった青龍の一面に、そういう相手に巡り会えた彼を羨ましいと思う心もなきにしもあらずなのであった。
「悪いけど。私、ソロソロ帰らせてもらうわ。実はちょっと別口の約束があるの」
そういって立ち上がったセシリアは、目でヘンリーとユンミンを促すのであった。
「俺もちょっと野暮用」
「わしもじゃ」
帰ろうとする三人を、慌てて引き留める秋生であったが、
「ごゆっくり」と耳元で囁かれて、言葉を失ってしまい、真っ赤になりながら、それでもしっかりと頷くのであった。
三人を玄関まで見送った秋生とビンセントは、自然に寄り添うようにして居間へと戻った。
「秋生」
名前を呼ばれて顔を上げた秋生に、ビンセントの顔がゆっくりとおりてきたかと思うと、唇が塞がれていた。その久しぶりのとろけるような甘いキスに、秋生は目を閉じて答えながら、先程まで思い悩んでいた自分が滑稽に思えて、クスッと笑うのであった。
(ああ、ビンセントだ。間違いなくビンセントだ)
「ビンセント、好きだ」
うっとりとして呟くと、私もですよといわんばかりの濃厚な口づけに変わり、秋生は自分の身体から力が急速に抜けていくのを感じて、ビンセントに必死にしがみつくのであった。が、秋生はふと、大事な事を思い出して、次の行為へと進もうとするビンセントの手を必死で拒むのであった。
「ビンセント、ちょっ・ちょっと、ちょっと待って」
「待てません」
「お願いだから」
そうして、何かと身を離すことに成功した秋生は、部屋の隅に置いてあったプレゼントの包みを、ビンセントに渡すのであった。
「これ。今日、街で見かけて、ビンセントに似合うと思って買っちゃったんだ。よかったらもらってくれる?」
「開けても良いですか?」
「うん」
そそくさと包装を開くビンセント。箱を開け、現れたコートとマフラーと手袋のセットに、「ああ」と感嘆の吐息を漏らすのであった。
「ありがとうございます。凄く嬉しいです」
「こんなのいっぱい持ってると思ったけれど、絶対に似合うと思ったから、衝動買いしちゃった」
「ああ、秋生」
ビンセントは秋生をしっかりと抱き締めた。
「貴方が今すぐ欲しい」
「ああ、ビンセント・・・・・・」
口づけの雨を秋生に降らしながら、ビンセントが囁く。
「ずっと我慢していました。貴方の『夜這い作戦』には、ちょっと負けそうになりましたけれど、だけどこれだけは言えます。私が安らげるのは、貴方の側だけです。貴方以外にはいないのです」
とろけそうな甘い甘い言葉と心地よい感触に酔いながら、その優しい腕の中へ身を投げ出す。
「ビンセント、愛してるよ」
「もう、今夜は離しません。覚悟して下さい」
「やだもう、エッチ!!」
「エッチな男はお嫌いですか?}
「ううん、大好き・・・・・・だ・・・・・・」
二人の姿がゆっくりと重なり、ソファーに倒れこんで行く。と、同時にフッと部屋の灯りが消えて、ツリーのランブの点滅が、一際、明るさを増して、華やかになる。
「メリークリスマス、秋生」
「メリークリスマス」
二人の囁きが、聖なる夜の幕開け。
二人だけの、二人のためのクリスマス。
そして・・・・・・。
終わり
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