黄龍伝説

〜ハーレム・ナイト〜

(4)
2001年10月2日 更新

  「後宮で貴方を初めて見た時、どんなに驚いたことか。エルフェリアが昔の姿のままで、現れたのかと思いました。貴方は彼女に生き写しです。会えて本当に良かった。これはまさに奇跡です。運命が私に貴方を会わせてくれたのです」
ビンセントが本当に嬉しそうな顔で母の名前を出すたびに、秋生は鋭い棘に胸を突き刺されるような痛みを覚え、ついには堪えきれず叫んでしまっていた。

 「どうして!?貴方と母様との間に何があったのかは知りません。でも、僕はクルード王国の王子です。貴方は敵でしょう。どうしてそれが運命なんです?嬉しいだなんて、いくら僕がみそっかすで役にたたない厄介者だったからって、馬鹿にしないで下さい。僕だって戦える。立派に死ねます !!」

 そんな秋生をビンセントは何とも言いがたい哀れみを込めた眼差しで見つめながら、フ〜ッと重い息をはくのであった。
 「馬鹿になどしていません。貴方に巡り会えて私がどんなに嬉しいと思ったか。だからもう簡単に死ぬなどと言わないで下さい。確かに今日まで貴方と私は敵同士だった。ですが、クルード王国はもうないのです。貴方は最早王子ではない。ただの秋生になったのです。だから生きて下さい。私と共に。お願いします」

 ビンセントの澄んだ深い瞳には嘘はなかった。
 (王子でもなんでもない、ただの僕。そんなことが許されてもいいのだろうか?)
17年の生涯のほとんどを、後宮でひっそりと生きてきた秋生にとって、外の世界は書物の中で知り得る、自由な憧れの世界であった。考えてもみなかった魅力的な言葉である。
 誰でもないただの自分。誰にも必要とされなかった王子の秋生でない、自分の思いのままに生きていくことのできる自分。

 (ああ、そうあれたらどんなにいいだろう)
だが、秋生は揺れる心を無理矢理抑えて、そんなことは不可能なのだと自分に言い聞かせて、頭を横に振って否定するのであった。

 「駄目です。僕だけがおめおめと生きのびる事など出来ません。たとえ誰にも認められていなかったとしても、僕がクルード王国の王子として生きてきたのは紛れもない事実ですから。それよりもどうして貴方が僕に生きろと言うのか理解出来ません。母様の身代わりですか?一体、母様と貴方はどういう知り合いだったのですか?そもそも、貴方は一体何者なんです?」

 ビンセントは堅くなまでに、精一杯の虚勢を張っている痛々しい秋生を見つめていたが、おもむろに吹き出すと、クククッと喉をならして笑い初めるのであった。
「そういう気の強いところまで彼女に似ているとは。そうですね。何から話しましょう。ですが、その前に貴方は食事をなさって下さい。そうしたら私も話して差し上げましょう。いいですね」
にこやかに笑って、無邪気に片目を瞑ってみせるビンセントに、秋生は怒りを忘れて知らず見惚れてしまうのであった。

 (なんて素敵な人なんだろう。こんな僕に屈託のない笑顔で、接してくれるなんて)
それがたとえ母に似ているからだけだとしても、それでも嬉しいと感じるほどに、秋生は人の優しさに飢えていた。後宮で秋生の心配をしてくれたのは、モアラだけであった。その彼女はこの男の同胞に無惨にも殺されてしまったのである。父も、義母達、義兄弟達もみんな全てが炎の向こうに消えてしまったのだ。

 秋生は一人生き残ってしまった己の運命を呪いながらも、ビンセントの言う運命というものがどんなものなのか知りたいと思い始めていた。
 そして、彼の話を聞くためだと自分に都合良く言い聞かせて、料理に手を出す。それがとても美味しくて、秋生は食べてから初めて自分がとても空腹だったことに気が付く。
 生きるの死ぬのと騒いだところで、お腹だけはちゃんとすいているなんて、なんと節操がないんだろうと反省しつつも、これが生きていることなんだとしみじみと思うのであった。

 ビンセントは秋生が食べる様子を見守りながら、酒を飲み始めた。秋生も小さな猪口に注がれた酒を強引にすすめられ、それをチビチビと舐めながら、こうして誰かと食事をすることなど母やモアラ以外にはなかったことに気づき、敵であった相手とこうして食事をしている自分の運命の不思議さを改めて感じずにはいられないのであった。

 「ミレニア王国を御存知ですね」
ビンセントの問いに秋生は大きく頷いた。
 ミレニア王国は母の故郷であった。時々、彼女はそれは懐かしそうにミレニア王国の事を話して聞かせてくれたものである。山々に囲まれた小さな国で、豊かとは言いがたいけれど、とても美しいところらしい。
 その時の母は、とても懐かしそうに楽しそうに笑っていたのものであった。

 「母様の故郷です。とても美しい国だと聞いています」
「そうです。ミレニア王国は本当に素晴らしい国でした。クルード王国によって壊滅的な打撃をうけましたが・・・・・・」
秋生はハッと息を飲んだ。ビンセントの言うとおりであった。母を得るために父は国を一つ滅ぼしたのである。

 ビンセントは燃える炎を見つめながら、淡々と語り続けるのであった。
「ミレニア王家は、この世を支配するといわれている黄龍の血をひく一族と言われており、直系の王は、代々黄龍の生まれ変わりとして人々に敬われ、長く平穏なときを過ごしていました。クルード王は、その黄龍の力と名誉を欲したのです。
 貴方の母であるエルフェリアは直系の跡継ぎでした。彼女を奪い、自分のものにすることで、自分の栄華を決定的なものにしようとしたのです。

 私の母と彼女は従姉妹にあたります。幼い頃、母に連れられミレニア王国を訪れた私を、エルフェリアは随分と可愛がって下さいました。美しく聡明な姫君で、幼いながらも私は彼女に憧れていました。それをクルード王は力で無惨に奪い去ったのです。

 戦に敗れ壊滅的な打撃をうけたミレニア王国はクルード王国の領地となりましたが、彼女の犠牲のおかげで、なんとか存続を許されました。が、大切な直系である彼女を人質にされ、毎年のように巨額の身代金を要求され続けました。それでもいつの日にか彼女が帰る事を望みとして、ミレニア王国の人々は堪え忍んできたのです。

 私は幼心にも、彼女を奪い返すことを誓い、今日まで戦い続けてきました。ただ、この何年もの間、彼女の消息がどうしてもつかめず、幾度クルード王国に問いただしても、元気であるとしか告げられませんでした。そして、ついに武力で追いつめることに成功して、彼女を解放すれば和解に応じるとのこちらの申し出にも答えはなく、もどかしさの余りに強引に忍び込んだのです。彼女を人質にとられたままでは、最後の攻撃をかけることもできませんでした。
 ですが、彼女はすでに亡くなられていた。我々はそれを知ることもなく戦い続けて来ました。ミレニアの人々は、今でも彼女の帰還を信じて待ち続けているのです」

 ビンセントの瞳に悲しげな影がさすのを秋生は目の当たりにするのであった。彼の無念さがひしひしと伝わってくる。彼は母を助け出すために戦って生きてきたのだ。その思いがいかに大きなものだったかを知り、秋生はショックを隠せないでいた。

 どうでもいい人のために命をかけて戦うことなど出来るはずはなかった。それほどに母の存在は彼の心の中を大きく支配しているのだ。本当に大切な人だからこそ自分の全てをかけて戦ってこれたのである。

 だが、それを思ったとき、秋生の心にはくらい醜い感情が生まれていた。秋生は母に嫉妬したのである。みんなに愛され続ける美しいエルフェリア。実の父にさえその存在を認められなかった自分とは余りにも違いすぎる。こんなにも僻みっぽく暗い性格の自分が、人に愛されるはずはないのだと思ったとき、秋生は自分の中に潜んでいたもう一つの思いに気づいて慌てるのであった。

 (愛されたい・・・・・・)
それが誰かを考えて、秋生は驚いて目の前のその人を見つめた。
(僕は彼に会いされたい!?)
ビンセントに大事に思われている母。それがどうして自分ではないのかと言うことが、堪えられない痛みとなって心を震わせたのであった。

 自分の想いを自覚したとたんに、秋生の頬は紅潮し、心臓は張り裂けんばかりにドキドキと高鳴った。そして、すっかり動揺し、初めての感情を持て余した彼は、落ちつこうと大きく深呼吸するのであった。

 「どうしました。疲れましたか」
ビンセントが心配そうに顔をのぞき込んで来て、秋生はますます火がついたように真っ赤になって、それを誤魔化そうと頭を横に振ってなんでもないと告げた。

 「母様の事、好きだったんですね?」
「ええ、大好きでした」
あっさりと認めて頷くビンセントの笑顔がとても辛くて、秋生は思わず手に持っていた猪口のお酒をグッと飲み干すのであった。

 「秋生、貴方は本当に彼女に生き写しです。私の記憶にある姿そのものです。その頃の私は、まだ5つになるかならないかぐらいのほんの子供でした。でも、彼女の美しさ優しさは今もはっきりと覚えています。残念な事に彼女は亡くなっていましたが、こうして貴方に会えた。何度も言いますがあの後宮で出会えたのは、まさに奇跡。運命の導きだったと私は思わずにはいられません」

そういったビンセントがいきなり身を乗り出すと、秋生の腕をとり自分の方へと引き寄せて、抱きしめるのであった。秋生は彼の逞しい胸の感触を身体で感じて、恥ずかしさにいっぱいになりながら、彼の端正な顔を見上げて、震える声で尋ねるのであった。
 「ビンセント、貴方は一体・・・・・」
母同志が従姉妹だという彼の正体は、何となく察してはいたが、それでも聞かずにはいられなかった。

 「ドラゴン王国、国王、ビンセント・青です」
クルード王国を破滅に導いた張本人であった。戦神『青龍』の生まれ変わりと噂されるその人の事は、秋生も良く知っていた。戦場において常に自ら先頭に立って軍を率いる勇猛果敢な国王の噂は、耳にしたことがある。
 そして、憎い仇敵。それが彼であったと確認して、秋生ハ〜ッと重い息をはくのであった。

 「エルフェリアの事は姉のように思い、尊敬していました。クルード国王に奪われた彼女をなんとしても取り戻したかった。彼女を素直に帰してくれさえすれば、軍をひいて和解する用意もあることを何度も使者を出して告げたのですが、クルード国王は拒み続けました。彼女の死を隠していたのはそのためだったのでしょうね。そして、貴方の事を公にしなかったのも、きっと貴方を誰にも渡したくなかったのかもしれません。

 貴方はミレニア王家の直系であるエルフェリアの一子。つまりはこの世を支配すると言われる『黄龍』の生まれ変わり。貴方の父はその伝説を信じ、生まれ変わりと言われるミレニア王国の跡継ぎの姫であるエルフェリアを愛し、奪った。その彼女にそっくりな貴方は彼にとっては絶対に誰にも触れさせたくない大切な存在だったのでしょう。それは彼なりの歪んだ愛なのでしょうが、秋生、貴方にとっては辛い日々でしたね」

 (父様が僕のことを愛していた!?)
考えもしなかった言葉に、秋生は混乱した。
 「ミレニア王国は、壊滅的な打撃をうけました。それはもう酷い有り様でした。しかし、年月はかかりましたが、今では立派に立ち直り、以前の美しい姿を取り戻しました。貴方のお爺様、お婆様も大変な御苦労をされましたが、お元気ですよ。貴方のことを知ればそれはお喜びになられるでしょう」

 (お爺様、お婆様が生きてらっしゃる)
会ってみたいと思った。母を失ってからずっと孤独だった自分に身内がいたというだけで、何故か嬉しく思えるのであった。母が語ってくれたミレニア王国の美しい風景を、是非見てみたいと思った。が、それは許されない事だと、秋生は浮き立つ心を否定するのであった。

 「駄目です。僕は行けません」
「何故です」
ビンセントの真剣な瞳は秋生の心を捕らえて話さなかったが、それでも秋生は承知するわけにはいかなかった。

 「僕は母ではありません。たとえ公に認められていなかったとはいえ、クルード王国の王子として生きてきたのです。いわば貴方にとっては敵国の人間。その僕がどうしておめおめと生き延びて、母の故郷に戻れるというのですか」

 たとえ父王が、自分の事を『黄龍』の生まれ変わりとしてだけ必要としていたのだとしても、それでも少しでも愛してくれていたのだ、必要としてくれたいたのだ。それを知ることが出来た今、ずっと心の中に大きく影を落としていた拘りがとけて、消えてしまっていた。力と名誉に拘り続けた哀れな父を許し、愛しくさえ思えるようになっていた。いくら一人生き延びたといっても、全てを捨てて生きる事は、やはり出来ない事なのであった。

 「ただの秋生になってほしいと言ったはずです」
そう言ってくれるビンセントの気持ちは本当に嬉しくて、今にもすがってしまいそうであったが、それでも秋生は彼の言葉に頷く事は出来ないのであった。

 「僕には半分、父様の血が流れています。僕がどんなに母様に似ていたとしても、僕は母様ではないし、どんなに求められようと母様の身代わりにはなれません。みんな、その違いにすぐに気づいてしまいます。父様だってそうだった。母様を愛していたのに、僕を愛しているとは一度も言ってくれなかった。僕の中の母様の面影ばかり見て、僕を見てはくれなかった。

 ビンセント、貴方もそうだ。貴方が助け出したかった母様は死んでしまっていた。たまたまその息子である僕が生きていたから、助けようと思っただけでしょう。でも、その内にきっと憎むようになる。僕が母様ではなく、敵国の血が半分流れている人間だと言うことを・・・・」
秋生は心の内をビンセントに正直にぶつけるのであった。
 「そんなことはありません!!私は貴方をー」
ビンセントの言葉が途切れたかと思うと、目の前が真っ暗になり、気がつくと唇を奪われていた。

 (あっ、止めて、ビンセント!!)
息も絶え絶えになりながら必死に抵抗したが、彼はそれを許さず、秋生に激しい貪るような口づけを与えるのであった。
 そして、秋生の顔を両手で挟み、逃げないように自分の真正面に捕らえると、真剣そのものの顔で告げるのであった。

 「いいですか、ちゃんと聞いて下さい。先程も言ったでしょう。運命だって。私が貴方に会えてどんなに嬉しかったか。一目惚れなんですよ、貴方に」
 だが、秋生はその言葉を信じることは出来なかった。こんな自分を素敵な彼が好きだと言ってくれるはずがない。
「嘘だ、信じない!!」
頑な秋生の態度に、ビンセントは根気強く諭すように言うのであった。

 「だったら言い直しましょう。最初から。秋生、私と一緒に来て下さい。貴方を愛しています。私だけのものになって下さい」
 (ビンセントが僕を愛しているって?)
母やモアラ以外の人から初めて言われる言葉であった。ずっとその言葉を自分に言ってくれる人を待ち望んでいたはずなのに、ビンセントの言葉を鵜呑みにするには、秋生の心は用心深くなっていた。

「う・嘘・・・・・・嘘だ」
「信じないと言うなら、身をもって信じさせてあげましょう。容赦しませんよ」
優しい、だが、強気な言葉に怯えて、ゴクリと息を飲む秋生の額に、ビンセントが優しく口付ける。そして、頬へ唇へとゆっくりと繰り返し軽いキスを繰り返すのであった。

 彼が触れたところから甘く心地よい感覚がフワリと広がっていく。
「本当に僕でいいの?」
「ええ、貴方が欲しいのです」
「ああ、ビンセント。嬉しい」

ビンセントの優しさに包まれて、秋生の身体からは緊張がとけ、恐る恐る自らビンセントの背に手を回した。自分を必要としてくれる人に初めて出会えた喜びは、いつもは謙虚過ぎるほどの秋生の心を、大胆にしていた。
 先程まで死ぬの生きるのだと言っていたはずの自分が、彼の国を滅ぼした張本人を愛しいと思っているのだ。まだ、出会ったばかりでお互いの何を理解しあえているのか分からないというのに、ただ心と心が惹かれ合っていることだけは確かに分かるのであった。

 それでいいと思った。全てを失った自分はもう何も怖くはない。ただ、ビンセントをこのまま失ってしまう事だけが、今の秋生にはとても怖く感じられるのであった。
 (ただの秋生を愛してくれる、この人を信じよう)

 ビンセントが慣れた手つきで秋生の衣類をあっという間に剥ぎ取ってしまう。フカフカの敷物の感触を素肌に感じながら、彼が触れたところが熱を持ったように疼き始めるのを唇を噛みしめて必死に堪えようとした。が、やがて疼きは熱い波となって秋生を翻弄して、飲み込んでいった。
 秋生はその波に流されないように、ビンセントに縋り付くのが精一杯なのであった。


 秋生は母の墓の横にたてられたモアラの墓標に、最後の別れを告げながら花を供えた。
 (モアラ、僕はビンセントと行くよ。きっと、幸せになるように頑張るから。母様と一緒に見守っていてね)
『秋生〜っ』
『秋生様〜っ』
耳の奥に母とモアラの自分を呼ぶ声が響いてくる。楽しそうな二人の笑い声に、秋生は胸がいっぱいになって涙が零れそうになるのであった。

 三日三晩燃え続けたクルードの王宮は、無惨な廃墟と化していた。一人生き残り、敵国の王と愛を交わしあってしまった自分が、とんでもなく冷酷な人間であり、父や王国の運命と共にその命を犠牲にした人達への大きな裏切り行為である事への罪悪感に苛まれた。そして、まだビンセントの自分への愛に戸惑っていた。

 「クルード王はエルフェリアをミレニア王国から強奪した。だから今度は私が貴方を奪ったのです。力ずくで。そう、思って下さい。貴方が自分を卑下する必要も苦しむ必要もありません。それでもまだ、罪だと思うのならば、私と共に戦いのない、人々が幸せに暮らすことの出来る国を作る手伝いをして下さい。お願いします。どうか私と共に生きて下さい」

 そのビンセントの言葉によって、秋生は心を決めたのであった。たとえどんなに辛くても逃げ出さずに彼と共に生きようと。
 墓地の前に佇み涙ぐむ秋生の背をそっと優しく抱くビンセントの温もり。
 「また泣いてしまいましたね。そんなになくと目がとけてなくなってしまいますよ」
そんな彼の優しさが、今の秋生を支えていた。彼を信じて生きること。それがこれからの彼の生きる道なのである。

 ビンセントが優しく笑いながら、そっと手を伸ばして秋生の涙を拭う。
「ビンセントのせいだ」
そんな憎まれ口をきく秋生を、ビンセントはギュッと強く抱きしめるのであった。

 「責任はちゃんととりますから」
「本当?」
「ええ、エルフェリアに誓います。辛い道かもしれませんが、二人で歩いていきましょう。貴方を絶対に幸せにしてみせます」
 とても嬉しいが恥ずかしい言葉に酔いながら、秋生はビンセントに甘えるように身体と心を預けるのであった。
 

 王宮の残骸は、一つの王国と多くの人々の死を物語る。けれども秋生は今日からまた新たな人生を歩き始めるのだ。
 恐らくそれはビンセントの言うとおりに辛い道のりなるだろうけれど、ただ、孤独でしかなかった昔と違うのは、秋生が一人ではないということだ。
 自分を必要としてくれる人がいる。それだけで生きて行けるのだ。
 だから幸せになろうと誓う。

 二人の幸せを求めて。秋生は生きるのだ。
愛ある限り・・・・・・。

                     ハーレム・パラダイスにつづく

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