黄龍伝説
〜ハーレム・パラダイス〜
(6)
2001年12月1日 更新
その初な身体に触れて、自分のものだと誇示せんぱかりの所有の印をくまなく散らした。だが、それを誰かの目にふれさせることは決してない。自分が許しはしないだろう。
優しい思いを込めて口付けるたびに、秋生は小さく震え、熱い吐息をついた。しっかりと目を瞑り、じっと堪えるかのように唇を噛み締めて、ビンセントの傍若無人を受け入れる。その健気さをいいことに、彼は秋生を求めつづけるのであった。
「はあっ」
まだ幼い秋生自身を捕らえて、口に含みそっと愛撫すると、初めて反応を見せた。
「いやっ、そんな・・・・・・ああ、やめて・・・・・・」
頭を振って、羞恥に頬を赤らめ、涙に潤んだ瞳で切なげに訴える。それがビンセントをますます昂ぶらせることになるとも知らず・・・・・・。
「やめて下さい。ああっ、ビンセント」
「本当に止めてもいいのですか?貴方のここはそうは言っていませんよ。ほら、こんなになって。とても正直ですね」
意地の悪い言葉をわざと囁き、どうだとばかりに変化し始めた先端を吸い上げてみる。
「ああっ」
たまらずあがる喘ぎ声に満足しながら、続けて刺激を与えると、若い精は容易くはじけるのであった。
「ごめんなさい」
恥ずかしそうに両手で、不覚にも涙を流してしまった顔を隠すように、恥らう秋生の全てが、ビンセントは愛しくてたまらなかった。
「何故、謝るのです。私は嬉しくてたまらないのに。貴方が私に感じてくれたという証ですから。そして、もってもっと私を感じて欲しいと思っています」
耳元で囁きながら、顔を隠した両手をそっと外させ、睫を濡らす涙を舐めとり、頬に軽い口付けを与えた。すると、秋生ははにかみながら、そっと両腕をビンセントの背に回し、ギュッと抱きついてくるのであった。
「ビンセント、僕をもっと強く抱きしめて・・・・・・」
願いを告げる震える声に誘われて、秋生の身体を抱く手にグッと力を込めると、秋生はビンセントの胸に顔を埋めて、かすかに喜びの声をあげるのであった。
「ああ、ビンセント、嬉しい。僕はずっとこんな風に誰かに抱きしめてもらいたかった。後宮では母様とモアラだけが心許せる人でした。僕は父上に抱かれた記憶がありません。いつも僕は、他の兄弟達が父うに抱かれているのが羨ましくて、それでも位置かきっとそうしていただける日が来るに違いないと、ずっと願っていました。僕は今、その願いを貴方にかなえていただいたのです。とても幸せです」
「・・・・・・」
そのせつないまでにささやかな秋生の願いをかなえられたのが自分である事を、ビンセントは心から感謝するのであった。同時に、不遇な日々を過ごしてきただろう秋生の長い年月の苦しみ、寂しさを思うと、何故もっと早くに救い出せなかったのだろうと後悔した。そして、彼はその無念さを少しでも和らげようと、秋生をもう一度強く抱きしめるのであった。
「はあっ、ビンセント」
喘ぐ艶っぽい声に、愛しさが胸の奥で一気に膨れ上がりねビンセントは性急に、激しく秋生を求めるのであった。
ビンセントの人生の大半は、戦いの中にあった。美しい従姉妹のエルフェリアを取り戻す事が悲願であり、彼女のために戦う事を誇りに思って生きてきた。
だが、それでも時には、荒れ果てた心を静め癒すための安らぎを必要とし、抱いた人の数も幾人とは知れぬほどであったが、秋生ほどのめりこみ、深い愛を感じる者は誰一人としていなかった。
確かに秋生はエルフェリアの息子であり、ミレニア王家の直系である。その黄龍の生まれ変わりという存在の価値が、秋生を欲する理由では決してなかった。勿論、彼女の面影をそのまま残す美しい容貌に魅了されているというのでもない。
一見静かでおとなしく素直でありながら、その下に秘めた芯の強さは、屈強な相手に怯むことなく命をかけて戦いを挑み、潔く死を選ぼうとした姿で知る事が出来た。魅力的なのは、何より美しい容貌に様々に浮かぶ表情であり、怒り、悲しみ、喜びそれらを隠す事もなく敏感に反応し、純粋な心の動きを表すそれは、誰のものでもなく秋生本人のものであり、ビンセントはそんな秋生に心を動かされ、すっかり囚われてしまったのであった。
そして、今、彼の手の内で身を捩り、羞恥に涙しながらも、精一杯にビンセントを受け止めようとする秋生の、その顔に浮かぶ新たな表情。苦しさに耐えながら、彼の愛撫によって身体の中からわきおこる不可思議な感覚の波に溺れ、時折見せるなんとも切なげな艶っぽい表情に、ビンセントは完全にのめりこんでしまっていた。
もっともっとその顔を見たくて、深く自分を感じて欲しくて、自分のものである事を確かめたくて、誰も触れた事のないそこへ、熱く猛ったビンセント自身を突き立てるのであった。
「ああっ・・・・・・、んっ、ああっ・・・・・・」
悲鳴に近い声をあげて、ビンセントにすがり付いてくる秋生。
「辛いですか。少しだけ我慢してください。身体の力を抜いて。分かりますか。貴方の中の私が――」
ビンセントの問いにっ、痛みを堪えながら大きく頷く秋生。
「ビンセント。貴方が僕の中でいっぱいだ。ああっ、感じる」
だが、感じているのは、ビンセントも同じであった。グイグイと彼を締め付けてくるその熱さに堪らず激しく動いて責めてたる。
「ああっ、変になってしまう。あんっ」
そして、二人して同時に果てていた。その瞬間、もうこの愛しい存在を手放せないとビンセントは思った。自分だけのものにして、ずっと側にいたいと。ずっと、このまま、幸せな時が永遠に続く事を願わずにはいられないのであった。
あの熱い夜、ビンセントは秋生に溺れ心を通わせあった。言葉ではない、身体と心の結びつきを確かめることが出来たのである。その幸せな思い出は余りに幸せすぎて、時が経るごとに、夢ではなかったのかという不安に変わり、ビンセントの心は焦りに苛まれ始めてしまった。
すぐに確かめたいと思う心とは裏腹に、旅の途中の今、周囲に大勢の人間がいる中で、表立って秋生と一緒にいることも思うようにならず、そのもどかしさに旅を急いでしまったのであった。
その結果として、後宮から外へ出た事がなく、ただでさえ身体の弱っている秋生を苦しめしることになってしまったのである。医者にはこれ以上無理をさせるのは命にかかわるとさえも宣言されてしまっていた。
秋生の伏せられた長い睫が幽かに揺れて、瞼が開く。高熱のせいかすぐに焦点が定まらず、宙を泳ぐ視線。だが、すぐに大きな瞳はビンセントの姿をとらえて、その口元にフッと笑みを浮かべるのであった。
「ビンセント、僕、どうしたの」
ぼんやりとした様子で、どうやら自分が倒れたという記憶さえ定かではないらしい。
「無理をさせましたね。なれない旅に疲れがたまってしまったようです」
「あっ・・・・・・・」
どうやら記憶が段々と呼び覚まされてきたようで、秋生は小声を上げると、申し訳なさそうにビンセントを見つめて言うのであった。
「ごめんなさい。迷惑かけてしまって。大した事ないんです。すぐによくなりますから」
まるで訴えかけるようにいう秋生の嘘が、分かっているだけに、何故これほどまでに頑なに大丈夫と言い張るのかその理由がわからず、ビンセントは腹立ちを覚え、少しくらい自分に甘えてく欲しいと切実に思うのであった。
愛する者の我が侭を聞く事もまた嬉しいものなのだということを、この哀れな愛しい存在が知らないのだという事が、彼にはもどかしく感じられて仕方がないのだ。
黙りこんでしまったビンセントの様子を見て、秋生の表情が見る見る強張り、突然、無理やり起き上がろうとするのであった。
「駄目です。安静にしていなくては」
「本当に大丈夫ですから」
止めるビンセントの手を振り払うようにして、秋生はなんとしても起き上がろうとするのだ。揉みあいが続き、ビンセントはたまらず秋生の頬を打っていた。
「あっ」
打ったビンセントも打たれた秋生も、お互いが驚いて、一瞬、息を止めて見つめあっていた。秋生の瞳は驚きに大きく見開かれ、涙が浮かんでいる。ビンセントは気まずさに慌てて視線をそらすのであった。
「どうして、身体の具合が悪いのなら、そうだと言って下さらないのですか?絶対安静か゜必要だそうです。こんなに悪くなるまで黙っていたなんて、気づかなかった自分が情けなくて堪りません。貴方は私に心を許して下さったわけではないのですね」
恨みがましい心にもない言葉で、八つ当たりしていた。
「ち・違います。そんな・・・・・、ああ、ビンセント」
小さく頭を横に振って違うのだと否定する秋生の青ざめた表情。涙がポロポロと零れ落ちて、やがて布団で顔を覆うと、声を殺して泣きはじめてしまうのであった。
(ああ、なんて私は、愚か者なのだ)
愛する者を追い詰めてしまった自分を責めながら、それでもどうしようという焦りを追い隠して、布団の端からわずかに出ている秋生の頭を、優しく撫でるのであった。感情とはいかに不思議で厄介なものかと、戦神青龍の生まれ変わりといわれる名将も、つくづくと思い知らされていた。
自分でもわからない心の奥の秘めた思いさえもが、理性を越えて噴出し、思わぬ言動をとらせるのだ。こんなに愛しているのに、愛しているがゆえの不安と哀れな嫉妬が、純粋な秋生の心を無残にも傷つけてしまったのである。
「ごめんなさい」
か細い声がビンセントに告げ、涙に潤んだ黒い瞳が不安に揺れながら、いじらしく彼をじっと見上げていた。
「どうして謝るのです。悪いのは私です。どうかしていました。貴方が私に心を開いて下さらないので、それが悔しくて八つ当たりしてしまったのです」
「違います。僕が無理に強がっていたのは、ビンセントの負担にこれ以上なりたくなかったからです。貴方にもう迷惑をかけたくなかった。置いていかれてしまうのが怖くて。だって、こんなに幸せなのは初めてだから。どうしていいのか、僕には分からないんです。貴方に嫌われてしまうんじゃないかと思うと、不安でたまらなくて。だから――」
恥ずかしそうに小声で告白する秋生のその言葉は、ビンセントの心を完全にとらえて、愛しさが激しい衝動となって、彼を突き動かすのであった。
「もう、完璧に降参です。貴方に私は絶対に勝てそうもない。いえ、出会った瞬間から、完全に負けてしまっていたのかもしれませんね」
布団を少し剥いで、秋生の顔を露にすると、そっと口付けた。込み上げる熱い思いの全てを注いだ、甘い甘い口づけであった。
「ビンセント・・・・・・」
秋生の寄ったようなうっとりとした眼差しが嬉しかった。
「私は心の狭い男ですから、貴方が少しも私を頼りにして下さらないので、拗ねてしまったのです。貴方にもっと甘えて欲しいし、我が侭を言って欲しいのです」
「本当!?」
「ええっ」
しっかりと大きく頷いたビンセントに、秋生は本当に嬉しそうに笑って見せるのであった。その笑顔の明るさ、可憐さに沸き起こる衝動を抑えるのには、限界があった。
「早くよくなってください。とても待ち切れそうもありませんから」
「えっ」
何の事か意味のわからない様子の幼い愛人に、悪戯な口付けを軽く与える。
「養生しながら、ゆっくりと旅をしましょう。無理をしないで。いいですね」
「はい」
秋生の顔に蘇った明るい笑顔に、ビンセントは心からその日が訪れる事を祈るのであった。
つづく
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