2004年6月8日
(3)


 お湯の温かさとは違った心地よい感触に、うっとりと目を開くと、すぐ側にド迫力の美形の顔のアップがあって、僕は驚いてしまった。
 全てが完璧な形で配列された整った顔。僕みたいな母親譲りの女顔とは違う、男らしい魅力に溢れている。

 「おや、目が覚めましたか。本当に手のかかる坊やですね。なかなか出てこないので、覗きにいったら湯船の中で眠っていたのには、驚きました。溺れて死なれては困りますからね」
「あっ、御免なさい」
慌てて起き上がろうとして、僕は自分がスッポンポンなのに気づいて、赤面してしまった。

 そう、彼もまた裸で、二人してキングサイズのベッドに裸で寝ていたのである。僕の動揺を見て、彼がクスッと笑い、慌てる僕とは対照的に余裕たっぷりという感じである。
 「風呂場から連れてきて、タオルでよく拭いて差し上げましたから、感謝してくださいそれとすみませんが、この部屋には普段は誰も泊めない事にしてあるので、他にベッドがありませんので、ここで我慢してください」

 「は・はい」
「おや、なんだかとても嫌そうですね」
蛇に睨まれたかえるっていうのは、こんな感じの事をいうのかもしれない。お世話になり、迷惑かけっぱなしの相手にとても失礼なのかもしれないけれど、こんなに迫力というか存在感のある人は、なんだか初めてであった。

 (やっぱりホストって違うんだ)
白いドレスのあんなに綺麗でお金持ちの彼女をエスコートする姿は、スペシャリストっていうか、一緒にいても見劣りするどころか、輝いてさえ見えた。自信があるっていうのか、只者でない風格さえ漂っていたのだ。

 (僕なんかとは全然違うよな。そうだ。この人にもてる秘訣みたいなものを教えてもらえないかな)
彼のようになれたらいいなあという、衝動的な本当に単純な発想だった。
 結局、いい人なんだけどって言うのは、単なる断る事への遠慮から出た御愛想の言葉で、本当に良い人だと思っていたら、別れようなんて思う分けない。多分、僕って付き合って楽しいと思える相手じゃなかったというわけなんだと思う。

 そりゃ、僕だってデートコースとか食事の美味しい店とかいろいろ研究したつもりだけど、何かが欠けているに違いない。
 「あっ、あの、突然、こんなお願いして申し訳ないんですけれど、迷惑かけついでにお願いします。どうか僕を立派な男にして下さい」

 酔った勢いだからこそ言えた言葉だった。素面だったらこんな恥ずかしい事言えない。でも、言った態勢の事まで考えてなかったのは、非情にまずかった。
 だってベッドの上にチョコンと正座はしているけれど、僕も彼もスッポンポンなのである。間抜けとしかいいようがないんだけど、僕はマジであった。

 彼はジーッと冷ややかな視線で僕を見つめていた。その間、僕の心臓はドキドキと高鳴っていた。
 そして、フーッと息を吐くと、彼はゆっくりと頷いてくれた。

 「こんなに色気のない、それでいて大胆な誘いというのは初めてですが、貴方がその気でいらっしゃるなら、教えて差し上げない事もありません。本当によろしいのですか?」
「はい、是非、お願いします」
僕は深々と頭を下げてお願いした。

 「いいでしょう。後悔しないようにしてください。まさか私もこんなクリスマスイブを迎えようとは思ってもいませんでした。冴子女史には恨まれそうですがね」
そう言うと、彼はベッドサイドの明かりを消した。

 (あれ、もう眠っちゃうの。まあ、そんなに急いだからってどうにかなるってわけでもないし、まあいいか)
僕はそう納得するのであった。

 暗闇の中で急に手を取られて、彼の方へと引き寄せられた。そして、温かな感触のものに口を塞がれる。
 (あれ?もしかして、僕、キスされてる?)
と、思う間もなく、そのままベッドにゆっくりと押し倒されてしまった。

 (嘘、これってやばいよ!!)
何か勘違いがあったのかななんてその時になって初めて気づくんだから、僕も相当な間抜けである。

 「むむ〜むっ」
止めてと言いたいのに、口をふさがれているから言えないし、手で押しのけて彼から離れようと突っ張ってこたけれど、全然効き目なしで、それどころか延びてきた彼の手に胸を弄られて、思わず身体に走った甘い疼きにビクッと反応してしまった。

 「あっ」
「感度は良いようですね」
「いやっ、やめて、こんなの違う・・・・・・」
「まだ始まったばかりですよ。貴方が望んだのです」

 (違う!!)
叫びたいのに声にならない。僕は頭を大きく振って抵抗して見せた。が、彼は容赦しなかった。
 彼の手が唇が触れたところから、甘い痺れが身体中に広がっていく。今まで女の子と何回かは経験したけれど、一度もこんな事はなかった。

 (ああっ、Hがこんなに気持ちいいなんて・・・・・・)
それも相手が先程あったばかりの男性というのはかなり問題のはずなのに、その彼に触れられて感じてしまっているのは、もうなんていうかとても信じられない事態であった。

 それも今日は特別な日、クリスマス・イブ。憧れていた恋人とのラブラブな逢瀬が、こんな形になってしまうなんて最悪な運命。それなのに・・・・・・。
 「あんっ・・・・・・」
彼の手が下半身に下がって、いきなり僕自身を掴んだ瞬間、凄まじい快感が突き抜けて、僕の身体は大きく跳ね上がってしまった。

 おまけになんかやけに媚びたような甘い声が知らず口から零れてしまって、僕は恥ずかしさに慌てて口を手で抑えていた。
 「隠さないで。感じるのは恥ずかしいことではありません」
そう言いながら彼は片手で僕の手を口元から引き剥がして、僕の指に柔らかなキスをした。まるで騎士が忠誠を誓った姫君に贈るような感じだった。

 ところが、もう片方の手は意地悪く蠢いて、僕を追い上げていく。
「あっ、ああんっ」
恥ずかしいなんて感じる余裕はなかった。一方的にもたらされる快感がたまらなくいいのである。

 「ああ〜っ」
いとも簡単にはじけてしまう僕。
 (ううっ、恥ずかしい〜よ〜っ!!)
まさに下半身の暴走というやつかもしれない。乱れた息を荒くつきながら、僕は余りの恥ずかしさから、シーツに顔を伏せた。だって、いくら暗闇だからといっても、こんなに接近していて、どんな顔をして彼とむきあったらいいのか分からない。

 「可愛いですね」
彼がそんな僕の耳元に囁くように言った。
「まさに冴子女史がいうとおりの子羊ですね。覚悟してください。可愛い子羊は悪い狼の餌食になってしまうのですよ」

 彼の息が耳をかすめてこそばゆいって思っていたら、温かなねっとりとした感触に変わって、それがたまらなく熱く感じて、先程精を放ったばかりだというのに僕自身がビクリッと反応してしまった。

 それどころか耳から首筋、そして、背中をゆっくりとおりていく彼の、唇と舌がもたらす快感にゾクゾクと震えて、たまらずにまた声をあげてしまった。
 「あっ・・・・・・はあっ」
 (ギャーッ、テクニシャン)

 さすがというべきなのか、僕の乏しい経験ではかつて感じた事のないような快感が次々と襲ってくる。それがとっても嫌じゃなくて、気持ちいいなんて、なんて節操なしなんだろう。
 乏しい経験も確かにそれなりに興奮したけれど、緊張感の方が大きかった。それとは全然質が違う。

 でも、さすがに彼のしなやかな指が双丘を割って、秘所の蕾に触れた時に、僕は焦った。
「やっ、そんなとこ、触らないで」
慌てて逃げだそうとしたけれど、彼は簡単には許してくれなかった。それどころかガッチリと腰を捉えられて組み敷かれてしまう。密着した身体の、彼の下半身の猛りが僕をますます焦らせた。

 (彼のアレが僕の中に入るなんて・・・・・・)
男同士の行為が、そういうものだという知識は一応あったけれど、でも、自分が経験することになるとは、思ってもいないことだった。

 「駄目、いや、放して!!違うんです」
僕は必死に足掻いてみせた。
 「駄目じゃありませんよ。おとなしくしていたらもっと気持ちよくなりますから」
「嘘っ」
「嘘じゃありません・・・・・・」

 クルリといとも簡単に彼は僕の身体をひっくり返す。逃げる暇なんて全然なかった。だって、彼ったらいきなり僕自身を迷わず口にしたのである。
 「はあっ・・・ああっ」

 それだけでいきそうになっちゃったけれど、なんとか堪えた。熱くねっとりと絡みついてくる彼の唇と舌、そして、支えた指が動き出したら、もう逃げようなんて気持ちも勢いも失せてしまっていた。

 (ひゃっあ〜っ、いい〜っ)
アダルトビデオで見たことはあったし、かなりいいっていうのは聞いていたけれど、これほどに刺激的だとは思っていなかった。付き合った女の子達に、とてもお願いなんて出来なかったし・・・・・・。

 追い上げられて、そして、また簡単に僕は達してしまった。もう、グッタリで頭の中が真っ白になってしまっていた。

 それからどうなったかの記憶は、本当に曖昧で、ただ、彼の指が僕の秘所に侵入して、散々嬲られた後、熱く猛った彼自身が挿入された時には、さすがに痛くて涙が零れてしまったけれど、でも、その後はまたこれが凄く気持ちよくて、僕は何度も達してしまい、よがり悶えて、気をうしなってしまったのだった。

 (神様、どうかお許しください・・・・・・)
                                        つづく

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