2009年2月1日
(2)

 「聖獣よ。秋生が玉に触れた瞬間、黄龍が半覚醒した!!」
天帝の呼びかけに四つの存在は、人型の姿で出現した。

 青龍は冷徹な美貌を持つ男。朱雀はその情熱の激しさを身に秘めた女。白虎はおおらかさを体に表した大男。玄武はその智の深さを表した翁の人型で、天帝を囲むように跪いた。

 「我らも確かに感じました。あれはまさしく黄龍の気。秋生が黄龍の転生体であることは分かっておりましたが、まさか、あの瞬間に半覚醒しようとは」
青龍の静かな言葉には、驚きがあった。

 「それほどにあの者の中に存在する力は大きいのだ。時は来た。この試練を秋生が乗り越える事が出来ねば、天も地も混沌の時代を迎えよう。闇が全てを支配する世にとってかわるのだ」

 「すでに秋生から生まれた闇が、少しずつ力を増しているのを感じるわ」
若い麗しい女型の朱雀が、恐ろしい事態を楽しんでいるかのように不敵に笑って言った。
 「あの坊やがこの試練を無事に乗り越えられる事を祈るしかない」
見かけは強面だが心優しい白虎は、秋生の身を心配して言った。

 「フォッフォッフォッ、全ては運命。とくと見せて貰おうかのう」
白い髭を弄びながら、玄武は回り始めた運命の輪の行方を、楽しんでいた。

 「秋生を守ってくれ。それはすなわち天と地、全てを救う事になるだろう」
天帝は、心から世の平和を祈っていた。そして、祈る事しか出来ず、ただ、一人の若者に託さなければならない己の力のなさを嘆いていた。

 「承知!!」
四聖獣が同時に大きく頷く。その力強さに天帝は、ほんの少しだけ救われたような気がするのであった。


 爽やかな風が草原を吹き渡っていく。暖かな日差しと、咲き乱れる花々。さえずりながら空を飛び回る小鳥達。天帝の居城からの帰り道。丘の上の木陰に座り込み、秋生はのどかな風景をボンヤリと眺めていた。

 まだ、覚めやらぬ興奮と緊張の余韻。あの天帝から直々に守護聖獣の守護を得られた印。未曾有の力が秘められているという玉を授けられたのである。

 (ああ、本当に夢じゃないんだね)
厳しい修行の末にやっと掴んだ夢。天帝の下で勤めると言う幼い頃からの夢が、かなったのである。

 まだまだ、これからも修行は続けていかねばならないが、夢がより身近に感じられた今となっては、どんな苦難にも耐えられるような気がした。

 そっと懐に入れた玉を出してみる。掌に乗るほどのそれは、日の光を浴びて、キラキラと黄色い光を放つ。
 (綺麗だ)

秋生はうっとりと玉を見つめた。
 (四聖獣を召還できるなんて・・・・・・)
召還獣の中でも最強の力を誇る青龍、朱雀、白虎、玄武を召還出来る力を授けられたという事は、本当に素晴らしい名誉である。

 (僕に務まるのだろうか)
天界でも最強と言われる四聖獣を与えられたという事は、それだけ重い責任を果たさねばならないという事である。

 どんなつらい試練にも耐える覚悟は当に出来ているが、それでも余りにも大きな力を自分が使いこなす事自信が、正直余りなかった。こんな不安を抱いてしまう自分の未熟さを誰よりも知っているのは、自分自身であった。

 (駄目だ、弱気になっちゃ。頑張らないと)
自分の弱気を叱咤する。

 相応しくないと思うのならば相応しくなるように、少しでも近づけるように努力しなければ、何も始まらないのだ。

 (よーし、頑張るぞ)
改めて自分に喝を入れる秋生であった。

 その時、秋生に近づく人の気配に、秋生はハッと我に返った。
「あっ、青さんだ!!」
見知った人物の姿に秋生は驚き、喜んだ。

 「秋生、お久しぶりです。元気そうですね」
そう挨拶した男は、20代半ばのそれは整った容貌の男であった。その涼やかな微笑に、秋生は思わず赤くなってしまう。

 「青さん、本当にお久しぶりです。」
その男の名を、秋生は青としか知らなかった。ただ、時々、修練の途中で、秋生がへこんでいる時に声をかけてきてくれて、何気に話をするようになったのであった。

 青は、商人であり、天界や下界にまで旅に出かけるといい、その旅の話を青から聞くのを秋生はいつしか楽しみに待つようになっていた。

 「今度は随分と長い旅だったんだね。また、話を聞かせてくれる?」
秋生は期待に満ちた瞳で、青を見つめた。

 「ええ、もちろんいいですよ。今回は、しばらく街に滞在する予定ですから」
「やった!!あのね、僕もいっぱい話したい事があるんだ。あのね、僕、今日、天帝様にお会いすることが出来て、直々に四聖獣を召還できる玉を貰ったんだ!!」

 秋生は黄玉を青に自慢げにみせた。
「もう、凄く素敵な方だったんだよ」
「それはそれはおめでとうございます。よく頑張りましたね」

 青が優しく微笑んで喜んでくれるのを見て、秋生は心の中がふんわりと暖かくなるのを感じた。

 「それではこれからお祝いの食事でもいかがですか?」
「ええ、いいの?」
「はい」
静かに大きく頷く青に、秋生は歓声をあげた。
「やった!!」

 青から思いがけない嬉しい誘いを秋生は心から喜んだ。そんな秋生を、青もそれは愛しそうに見つめるのであった。

                                      つづく
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